私たちの身体には「免疫」と呼ばれる防御システムが備わっており、細菌・ウイルスなどの外的脅威だけでなく、体内で日々発生するがん細胞からも身を守っています。免疫は大きく自然免疫(異常を素早く察知・処理する第一防衛線)と獲得免疫(脅威を記憶し次回以降に特異的に対応する)の2種類に分かれます。
健康な状態では、免疫システムがこの「毎日生まれるがん細胞」を異物と認識して除去し続けています。しかし、免疫力が低下すると処理が追いつかなくなり、発がんにつながります。さらに加齢とともに免疫力は自然に低下するため、感染症やがんのリスクは年齢とともに高まっていきます。
長期間がん細胞と闘い続けた免疫細胞は次第に疲弊し、細胞表面に「免疫チェックポイント分子」と呼ばれる受容体が現れます。がん細胞はこの受容体と結合することで免疫の攻撃にブレーキをかけ、排除を回避します。
2018年、京都大学の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞した研究がまさにこのメカニズムの解明です。先生が開発した免疫チェックポイント阻害剤(PD-1阻害薬)は、がん細胞がブレーキをかける前に受容体を先占することで、免疫細胞が再びがんを攻撃できる状態を取り戻します。この発見によって、がん免疫療法は新たな段階へと進化しました。本庶先生は現在も京都大学「がん免疫総合研究センター」のセンター長として研究を率いています。
免疫細胞療法は大きくワクチン療法とリンパ球療法に分類されます。
免疫細胞療法は、一部の血液系がんを除くほぼすべてのがんに対して実施でき、病期(ステージ)も基本的に問いません。早期からの導入が望ましく、患者さんの全身状態が治療効果を左右します。
総患者数1,522名(ワクチン群808名、対照群714名)を対象としたメタ解析です。ハザード比1.33という結果は、ワクチンを投与したグループが投与しなかったグループに比べて、再発なく良好な状態を維持している割合が統計的に約33%高いことを示しており、有意な有効性が確認されています。また、重篤な副作用(グレード3以上)は全体でわずか5件、治療関連死は0件と、非常に高い安全性も証明されています。
新規診断の膠芽腫(GBM)375名(AFTV群164名、非AFTV群211名)を対象とした後ろ向き研究です。AFTV療法を受けたグループでは、無増悪生存期間(PFS)が8.7ヶ月から14.0ヶ月へ、全生存期間(OS)が21.9ヶ月から32.0ヶ月へと有意に改善(いずれもp<0.05)。特にIDH野生型かつPD-L1・p53陰性の患者において効果が顕著でした。
肝細胞がんに対する根治的治療(手術または焼灼術)後の補助療法として、自家活性化リンパ球(CIK細胞)を用いた多施設ランダム化オープンラベルフェーズ3試験(230名)です。無再発生存期間(RFS)の中央値がCIK群44.0ヶ月・対照群30.0ヶ月(ハザード比0.63、P=0.010)と有意に延長。5年間の延長フォローアップでも効果の持続が確認されており、これまで有効な補助療法がなかった肝細胞がんにおける重要なエビデンスです。
未治療の進行期扁平上皮非小細胞肺がんを対象に、自家活性化リンパ球(CIK細胞)+化学療法(シスプラチン+ゲムシタビン)群と化学療法単独群を比較した多施設ランダム化試験です。CIK細胞併用群では全生存期間(OS)中央値が21.0ヶ月と、化学療法単独群の10.3ヶ月に比べ10.7ヶ月の延長が認められ、死亡リスクが78%低下、病勢進行リスクが76%低下しました。なお本試験は化学療法との併用を前提とした結果です。
自家がんワクチン療法は、患者さま自身のがん組織から作製したワクチンを用いて、がんに対する免疫応答を引き起こす治療法です。体外で作ったワクチンによってリンパ球を「教育」し、がん細胞を特異的に攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)を体内で増やすことを目指します。
本療法は、理化学研究所・元細胞開発銀行室長の大野忠夫博士が、ホルマリン・パラフィン固定組織から作製したワクチンがCTLを誘導するという基礎実験(Nature Medicine, 1995)を発表したことに端を発します。その後、筑波大学脳神経外科・東京女子医科大学脳神経外科での臨床試験を経て、現在の治療プロトコルが確立されました。
すでに手術を終えた方でも、病理標本(パラフィンブロック)が保存されている場合はワクチン作製が可能なケースがあります。まずはご相談ください。
活性化リンパ球療法(ALT:Activated T-Lymphocyte Therapy)は、患者さま自身の血液からTリンパ球を取り出し、体外で数千倍に増殖・活性化させてから体内に戻す免疫細胞療法です。1970年代から研究が始まり、細胞培養技術の進歩とともに安全性・有効性が高められてきた歴史ある治療法です。
Tリンパ球は体内でもがん細胞を発見・攻撃する役割を担っています。しかし、がんの進行や加齢・ストレスなどによりその数や活性が低下することがあります。体外で大量に増やした活性化Tリンパ球を点滴で戻すことで、がん細胞への攻撃力を集中的に高めることが期待されます。
がん免疫細胞療法は、患者さまの状態・病歴・これまでの治療経過によって適応や方針が異なります。まずはお電話にてご相談ください。詳しくお話を伺ったうえで、適切な治療をご提案します。
初回相談時には、これまでの病歴・手術記録・病理報告書・現在の服用薬などをできる範囲でご持参いただくと、より具体的なご説明が可能です。現在主治医がいる方は、治療の経緯を簡単にまとめたメモをお持ちいただくと助かります。
「自分に適用できるか分からない」「費用について知りたい」という段階のご相談も歓迎します。