はじめに ―― 院長自身の経験から
現代の女性が抱える不調は、更年期・PMSといったホルモンバランスの変化だけでなく、家庭環境や仕事の負荷、社会的役割など多様な要因が重なり合って生じます。 当院では、これらの心身の揺らぎに対して、漢方・栄養・生活指導・必要に応じた西洋医学を組み合わせた「統合的アプローチ」を行っています。
なかでも加味逍遙散は、情緒不安・イライラ・不眠・胸のざわつき・ほてり・頭痛と、幅広い不調に対応できる使いやすい処方です。 当院でも非常によく使っており、多くの患者さんに「楽になった」と言っていただいています。 今回は、実際にどのように効いたのか、5つの症例でご紹介します。
加味逍遙散とはどのような漢方か
加味逍遙散(かみしょうようさん)は、中国明代の医書『内科摘要』を起源とする漢方処方で、柴胡・芍薬・当帰・茯苓・白朮・甘草・生姜・薄荷・牡丹皮・山梔子の10種類の生薬から構成されます。 東洋医学では「気の流れが滞って情緒が乱れやすい状態」を整える代表的な処方とされており、現代医学的にも自律神経の調整・ホルモンバランスの安定・抗ストレス作用などが研究で示されています。
臨床症例
精神科の既往がある方でも、更年期の心身の乱れに対して漢方が力を発揮した例です。「西洋薬はできれば増やしたくない」という方にとって、漢方は心強い選択肢になり得ると改めて感じました。
2週間という短期間でこれだけはっきり改善したのは、2剤の組み合わせが相乗的に働いたためと考えています。「飲み始めたらよく眠れた」という声は、加味逍遙散+半夏厚朴湯の組み合わせで特によく聞かれます。
喪失感という心の痛みに対して、漢方が静かに寄り添った例だと感じています。特に「不安が出てきたときに飲む」という頓服的な使い方でも半夏厚朴湯が役立つことが実感できた症例でした。
身体の不調(むくみ・頭痛)と心の不調(イライラ)が同時に現れるケースはよくあります。身体面から丁寧に整えていくことで、気づけば心も安定していた――そんな漢方らしい経過だったと思います。
情緒・身体・皮膚とさまざまな場所に症状が出ていましたが、1週間という短期間でまとめて改善したのは印象的でした。錠剤で飲みやすかったことも続けやすさにつながったと思います。若い方でもPMSに漢方が十分使えることを示してくれた症例です。
まとめ ―― 5症例から見えること
今回ご紹介した5例では、以下のような多様な背景を持つ女性患者に対して、加味逍遙散を軸とした漢方治療が有効でした。
- 統合失調症の既往を持つ更年期患者における精神症状の安定
- PMSに伴う落ち込み・不眠の改善
- 空の巣症候群による不安・不眠の軽減
- むくみや頭痛と情緒不安が併存するケースの改善
- PMSに伴う情緒不安定・腹痛・頭痛・皮膚症状の改善
加味逍遙散は単独でも十分効果的ですが、体質や症状に応じた漢方を組み合わせることで、心身をより幅広く整えることができます。よく一緒に使う処方と、その主な使いどころをまとめました。
| 組み合わせた漢方薬 | 漢方的な使いどころ | 主な対象症状 |
|---|---|---|
| 半夏厚朴湯 | 気の滞り・喉のつかえ | 喉のつかえ感・不安感・不眠・パニック様症状 |
| 当帰芍薬散 | 血の不足・水分の偏り | 冷え・むくみ・月経不順 |
| 五苓散 | 水分の偏り・排出不足 | むくみ・頭痛・めまい |
| 黄連解毒湯 | 体内に熱がこもる状態 | のぼせ・湿疹・イライラ(熱が強い場合) |
| 桂枝茯苓丸(加薏苡仁) | 血の滞り・水分の偏り | 月経痛・肌荒れ・下半身の冷え |
上記のほか、抑肝散・桂枝加竜骨牡蛎湯・桂枝茯苓丸・半夏白朮天麻湯・甘麦大棗湯・帰脾湯なども、症状や体質に応じて使い分けています。 お一人おひとりの体質や生活背景に合わせて処方を組み立てることで、心身のバランスが整い、毎日がずいぶんと楽になる方が多くいらっしゃいます。
漢方をおすすめする理由
更年期症候群に対して西洋医学ではホルモン補充療法(HRT)がよく用いられ、ほてりなどの症状には著効します。 一方で、エストロゲンが一因となる疾患(乳がん・血栓症など)の将来的なリスクを考慮する必要があります。 漢方はそのようなリスクなく、自然の生薬の力で心身のバランスを整えることができるため、長期的に安心して続けられる治療として当院でもお勧めしています。
※本コラムは当院の実際の診療経験に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療を保証するものではありません。 漢方薬は一部の医薬品や持病との相互作用が生じる場合があります。 症状や体質・服用中のお薬によって処方内容は異なりますので、必ず医師・薬剤師にご相談のうえご使用ください。
※ジュンコウ、オースギは当院で取り扱っているメーカーです。
患者さまの体質や症状を丁寧に観察し、その方の生活背景も考慮した上で漢方を処方すると、短期間で症状が改善するケースを数多く経験してきました。 当院が大切にしている「優しく寄り添う医療」において、漢方はなくてはならない存在です。 更年期・PMS・不眠・不安など、日々の不調でお困りの方はどうぞ一度ご相談ください。