はじめに ―― 院長自身の経験から

🩺 院長より
私自身かつて強い頭痛に悩まされた時期があり、加味逍遙散によって症状が驚くほど軽減した経験を持っています。 この出来事は漢方が「ただの補助ではなく、心身を整える有効な治療のひとつ」であることを実感するきっかけとなりました。 それ以来、漢方の奥深さに魅了され、日々の診療に積極的に取り入れています。

現代の女性が抱える不調は、更年期・PMSといったホルモンバランスの変化だけでなく、家庭環境や仕事の負荷、社会的役割など多様な要因が重なり合って生じます。 当院では、これらの心身の揺らぎに対して、漢方・栄養・生活指導・必要に応じた西洋医学を組み合わせた「統合的アプローチ」を行っています。

なかでも加味逍遙散は、情緒不安・イライラ・不眠・胸のざわつき・ほてり・頭痛と、幅広い不調に対応できる使いやすい処方です。 当院でも非常によく使っており、多くの患者さんに「楽になった」と言っていただいています。 今回は、実際にどのように効いたのか、5つの症例でご紹介します。

加味逍遙散とはどのような漢方か

加味逍遙散(かみしょうようさん)は、中国明代の医書『内科摘要』を起源とする漢方処方で、柴胡・芍薬・当帰・茯苓・白朮・甘草・生姜・薄荷・牡丹皮・山梔子の10種類の生薬から構成されます。 東洋医学では「気の流れが滞って情緒が乱れやすい状態」を整える代表的な処方とされており、現代医学的にも自律神経の調整・ホルモンバランスの安定・抗ストレス作用などが研究で示されています。

加味逍遙散が特に適するとされる症状の目安として、「更年期・月経前後の情緒不安定」「イライラ・のぼせ・肩こりが重なる」「不眠が続く」「胸のざわつきや不安感がある」といった状態が挙げられます。 体力が中程度か、やや低下している方に向いた処方です。

臨床症例

症例 1 56歳 女性|高血圧・更年期症候群(統合失調症の既往あり)
主訴・現症
頭痛・イライラ・動悸が強く、顔面全体に赤みとほてりを呈していました。眼光がやや鋭く、幻聴による苦痛も訴えておられました。5年前に統合失調症と診断された既往があります。
処方
加味逍遙散
更年期による自律神経の乱れが強く出ていると判断し、加味逍遙散を処方しました。 あわせて刺激物の摂取を控えること・食事リズムを整えることなど、生活面の指導も行いました。
経過
服用後は徐々に情緒の安定が見られ、頭痛・ほてり・動悸が軽減。時間をかけて経過を追う中で幻聴も消失しました。 ご家族や職場の方からも「表情が明るくなった」と言われるほど改善し、現在は元気に日常生活を送られています。
💡 考察

精神科の既往がある方でも、更年期の心身の乱れに対して漢方が力を発揮した例です。「西洋薬はできれば増やしたくない」という方にとって、漢方は心強い選択肢になり得ると改めて感じました。

症例 2 47歳 女性|PMS(落ち込み・不眠)
主訴・現症
月経前に情緒の低下が著しく、頭のぼんやり感・意欲低下・肩こり・めまい・イライラなど多彩な自律神経症状を伴っていました。
処方
加味逍遙散(ジュンコウ) 半夏厚朴湯(ジュンコウ)
気と血の巡りが滞り、喉のつかえ感や不安感も出ていると判断しました。情緒の安定には加味逍遙散を、喉のつかえ・不安感には半夏厚朴湯を組み合わせました。
経過
処方から2週間後の再診では、「よく眠れるようになった」「気力が戻り落ち込みが消えた」「日中の不調が明らかに軽減した」と、本人がはっきりと改善を実感されていました。
💡 考察

2週間という短期間でこれだけはっきり改善したのは、2剤の組み合わせが相乗的に働いたためと考えています。「飲み始めたらよく眠れた」という声は、加味逍遙散+半夏厚朴湯の組み合わせで特によく聞かれます。

症例 3 51歳 女性|空の巣症候群による虚無感・不眠・不安
主訴・現症
子どもたちが自立して家を離れたことを契機に「空の巣症候群」の状態となり、心にぽっかり穴が空いたような虚無感を訴えて来院されました。不眠と強い不安が続き、日常生活に支障をきたしていました。
処方の推移
加味逍遙散(ジュンコウ) 半夏厚朴湯(ジュンコウ) ※追加
まず加味逍遙散を処方し、一時的に症状が落ち着きました。服用を中止すると再び不安定となったため再開。 その後、胸のざわつき・落ち着かない感じが再燃したため、喉のつかえ感や不安発作に向く半夏厚朴湯を追加しました。
経過
併用により約1週間で心が落ち着き、夜間も眠れるようになりました。パニック様の不安発作が起きた際も、半夏厚朴湯の服用で速やかに気分が安定しました。
💡 考察

喪失感という心の痛みに対して、漢方が静かに寄り添った例だと感じています。特に「不安が出てきたときに飲む」という頓服的な使い方でも半夏厚朴湯が役立つことが実感できた症例でした。

症例 4 43歳 女性|月経周期に伴うむくみ・頭痛・情緒不安
主訴・現症
月経周期に関連した水分代謝の乱れによるむくみが主訴でしたが、経過中にイライラしやすいという情緒面の訴えも出現しました。
処方の推移
当帰芍薬散(ジュンコウ) 五苓散 加味逍遙散 ※追加
まず当帰芍薬散と五苓散を併用し、むくみの軽減を確認しました。その後、情緒面の乱れに対して自律神経の調整を目的に加味逍遙散を追加処方しました。
経過
加味逍遙散の追加から約2週間で心身ともに調子が安定しました。五苓散との併用により頭痛も改善し、「身体が軽くなった」と喜ばれていました。
💡 考察

身体の不調(むくみ・頭痛)と心の不調(イライラ)が同時に現れるケースはよくあります。身体面から丁寧に整えていくことで、気づけば心も安定していた――そんな漢方らしい経過だったと思います。

症例 5 27歳 女性|PMS(易怒性・腹痛・頭痛・口囲湿疹)
主訴・現症
月経前になると強いイライラや情緒の不安定化が起こり、些細なことで涙が止まらなくなる状態が続いていました。腹痛・頭痛を伴い日常生活に支障をきたすほかに、口のまわりに反復する湿疹も認めました。
処方
加味逍遙散エキス錠 桂枝茯苓丸加薏苡仁エキス錠 黄連解毒湯エキス錠(オースギ)
イライラ・頭痛・腹痛という気の滞りが中心と判断し、加味逍遙散をメインに処方しました。 軽いむくみには桂枝茯苓丸加薏苡仁を、口のまわりの湿疹には体内に「熱」がこもっているサインと考え黄連解毒湯を加えました。
経過
飲み始めて約1週間で腹痛とイライラが目に見えて落ち着き、月経前にも涙が出なくなりました。頭痛も軽減し、日常生活に支障なく過ごせるようになりました。口囲湿疹も黄連解毒湯の併用により改善しました。
💡 考察

情緒・身体・皮膚とさまざまな場所に症状が出ていましたが、1週間という短期間でまとめて改善したのは印象的でした。錠剤で飲みやすかったことも続けやすさにつながったと思います。若い方でもPMSに漢方が十分使えることを示してくれた症例です。

まとめ ―― 5症例から見えること

今回ご紹介した5例では、以下のような多様な背景を持つ女性患者に対して、加味逍遙散を軸とした漢方治療が有効でした。

加味逍遙散は単独でも十分効果的ですが、体質や症状に応じた漢方を組み合わせることで、心身をより幅広く整えることができます。よく一緒に使う処方と、その主な使いどころをまとめました。

組み合わせた漢方薬 漢方的な使いどころ 主な対象症状
半夏厚朴湯 気の滞り・喉のつかえ 喉のつかえ感・不安感・不眠・パニック様症状
当帰芍薬散 血の不足・水分の偏り 冷え・むくみ・月経不順
五苓散 水分の偏り・排出不足 むくみ・頭痛・めまい
黄連解毒湯 体内に熱がこもる状態 のぼせ・湿疹・イライラ(熱が強い場合)
桂枝茯苓丸(加薏苡仁) 血の滞り・水分の偏り 月経痛・肌荒れ・下半身の冷え

上記のほか、抑肝散・桂枝加竜骨牡蛎湯・桂枝茯苓丸・半夏白朮天麻湯・甘麦大棗湯・帰脾湯なども、症状や体質に応じて使い分けています。 お一人おひとりの体質や生活背景に合わせて処方を組み立てることで、心身のバランスが整い、毎日がずいぶんと楽になる方が多くいらっしゃいます。

漢方をおすすめする理由

更年期症候群に対して西洋医学ではホルモン補充療法(HRT)がよく用いられ、ほてりなどの症状には著効します。 一方で、エストロゲンが一因となる疾患(乳がん・血栓症など)の将来的なリスクを考慮する必要があります。 漢方はそのようなリスクなく、自然の生薬の力で心身のバランスを整えることができるため、長期的に安心して続けられる治療として当院でもお勧めしています。

👩‍⚕️
新本町クリニック 院長より

患者さまの体質や症状を丁寧に観察し、その方の生活背景も考慮した上で漢方を処方すると、短期間で症状が改善するケースを数多く経験してきました。 当院が大切にしている「優しく寄り添う医療」において、漢方はなくてはならない存在です。 更年期・PMS・不眠・不安など、日々の不調でお困りの方はどうぞ一度ご相談ください。

※本コラムは当院の実際の診療経験に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療を保証するものではありません。 漢方薬は一部の医薬品や持病との相互作用が生じる場合があります。 症状や体質・服用中のお薬によって処方内容は異なりますので、必ず医師・薬剤師にご相談のうえご使用ください。

※ジュンコウ、オースギは当院で取り扱っているメーカーです。